更新 2024年10月13日
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『T・Pぼん』「アニメ化は記念法に則って」
イラスト:玉生洋一
プロローグ
リーム:ぼん、お久しぶり。
ぼん:えっ、リーム?なんか顔が変わったような……。
リ:今度……って二〇二四年なんだけど、『T・Pぼん』がシリーズアニメ化されるの。そのためのキャラデザ。ぼんもキャラデザ変えるための注射打つわよ。
ぼ:いてっ!なんで……?
ブヨヨン:あにめ化ノタメコレマデノ任務ヲ全部ヤリ直スノダ!
ぼ:そんな面倒なことを。あっ……ブヨヨンもいるんだ。
リ:ぼんのいる時代設定が二〇二四年に変更になって、原作から変えないといけない部分が多くて。また様々な歴史舞台についてもそれぞれ専門家により考証が二〇二四年レベルまでアップデートしたので、結局全部作り直すことになったの。
ブ:マズ新シイ設定二〇二四年日本ノ風俗習慣ヲ圧縮学習シロ!
ぼ:へえ、スマートフォンとかが普及しているんだ。ところでリームの制服って二〇二四年の基準でみると結構際どくない?一九八九年のアニメスペシャルでは大人しめのデザインだったけど。
リ:今回のアニメ化では藤子・F・不二雄生誕九十周年記念法が適用される。第一章第一条、藤子・F・不二雄の原作を尊重しみだりに変更してはならない。
ブ:みにすかーとハ侵サレザルベキ原作ノ本質ト判断サレタッテコトダナ。
リ:まあファッションなんて時代と共に変わるのよ。例えばあたしたちも行ったミノア時代のクレタでは、女性の胸は性的な部位とはみなされてなかったからトップレスの衣装の女性もいた。アニメでもそこは再現される。あとシーズン1最終回に出てくる未来のT・Pのデザインも、原作に準拠しながらなるべく現在人のセンスに逆らうような彩色をねらっている。
あたしが住んでるのは二〇五六年に設定変更になってT・P本部はもう少し後の年代にあるんだけど、その時代で持続性ネコシャクシビールスを使ってまたミニスカートを流行らせたというわけ。
ブ:デモぱんちらハナシダ。
リ:その辺は臨機応変ってことで。九十周年記念法は概して厳しめに運用される。NHKのSF短編ドラマ化にも適用されてるんだけど、製作陣は結構苦労しているって話ね。
エピソード3『ピラミッドの秘密』
ぼ:トトの妻のエピソードとか付け足したけど、まだ尺が余りそうだよ。なんとかしなきゃ!
リ:さっき墓あらしの一味にあたしたちを逃がそうとした怪しい男がいたでしょ。あれアニメオリジナルキャラで割と重めな仕込みで、これ以上原作への介入は危険なのよ。
ぼ:旧アニメスペシャルを準原作扱いにすれば……。
リ:いいこといってくれたわ。
ぼ:「あたしの酸素全部あげる」ってやつやって!
リ:…………ちょっと無理!
エピソード5『魔女狩り』
リ:今回の舞台は原作の一六六四年から一六四四年の南フランスに変更になった。
ぼ:二十年の違いって微妙だね。
リ:ヨーロッパで魔女狩りが盛んに行われたのは十五世紀から十七世紀にかけてなんだけど、十七世紀後半ともなれば下火になって極刑は減ってきた。少女の火あぶりがありそうなギリギリなところにした感じかしら。
ぼ:魔女狩りってなんか中世っぽいイメージもあるよね。前に映画の好きな父さんと観た『第七の封印』でも少女が火あぶりにかけられるシーンがあった。
ブ:父サント観タッテノハ今回あにめノ『OK牧場ノ近所ノ決闘』ノえぴそーどデモ使ウケド、一九五〇年代ノ映画ヲ二〇二四年ノ中学生ノ父親ガ好キトイウノモチョット苦シイ設定ダヨナ。
リ:あれは十字軍、ペスト、魔女狩りと中世の様々な時期のイメージを敢えてごちゃ混ぜにした幻想的な映画。十七世紀フランスとなるともう絶対王政時代で、教会の力が絶大な十二、三世紀の異端審問の頃とは全然違うのね。アニメでは原作中の十字架などのキリスト教的象徴は減らされて、民間主導の面が強調される。
エピソード7『暗黒の大迷宮』
ぼ:今回のアニメではいけにえに選ばれたアテナイ人男女にメネステスとクレウーサと名前も与えられてその周りの設定も補強されてるね。
リ:原作では二人を逃しておしまいだったんだけど、二人はアテナイから政治的使命を負っていけにえになったのだからアテナイには帰れないわけ。そこで二人を乗せた船の船長フェレクロスがこの航海で引退になるよう準備班のT・P隊員に調整してもらった。引退する船長ならアテナイの命に反して二人を逃がしやすくなるから。
ぼ:準備班のT・Pなんているのか。
ブ:裏方ノ裏方ッテ感ジダナ。
リ:ぼん、何そわそわしてるの?
ブ:とっぷれすノくれたノ女ノ人ヲ探シテイルンダロウ?ソンナ余裕ナイゾ。君タチハコレカラみのたうろすニ殺サレルンダシ。
ぼ:ええっ!あれやるの?さすがにアニメでやるにはアウトな表現じゃない?
リ:アニメのレイティングは、暴力があるので「十六歳以上にオススメ」となってます。
ブ:九十周年記念法ニヨリ作者ノ残虐趣味ガ極力尊重サレルタメノ措置ダ。
ぼ:やっている中学生の僕らが観るのをオススメされていないってのはあり?そもそも記念法、記念法って、作者はそんなに偉いの?神さまなのか?一度会って文句言ってやりたいぞ!!
ブ:会エルゾ。二十世紀ノくれたニ行ク時、日本人旅行者ニ会ウダロ。たら子たら夫ノ偽名ヲ使ッテイルケド、アレガ原作者藤子・F・不二雄ダ。
リ:水銀電池を借りるところであたしたちフレームアウトするから、意趣返しに思いっきりシメてやりましょう。
エピソード8『戦場の美少女』
ぼ:敷島先生は二〇二四年だと九十五歳?社会科実習でお年寄りに昔の話を聴くってことになるのか。
リ:教師を引退して独身でその後何十年も一軒家で一人暮らしして九十歳過ぎまで健康を維持させるのもなかなか大変なことで、これも裏で準備班のT・P隊員が相当骨を折ったらしい。
ブ:ソノ人生モ君タチガ桜木少尉ヲ救出シテ上書キシチャウンダケドナ。
ぼ:T・Pって本当に地味な仕事だな。
リ:原作では脳波交流の中で明子さんが日本を「前よりももっとゆたかな国に発展してるの」と言って桜木少尉を説得するんだけど……。
ぼ:オイルショックを経験したものの全体的に経済が上向きな一九七九年ならそれでいいけど、バブル崩壊後三十年間停滞した二〇二四年では胸張ってそれは言いづらいな。
リ:明子さんが桜木少尉をどのように説得するか様子を見ましょう。
エピソード9『バカンスは恐竜に乗って』
リ:バカンス先は、原作の「一億九千万年前三畳紀とジュラ紀の中間の南アフリカ」から「約一億五千万年前後期ジュラ紀の北アメリカ」に変更。
ぼ:なんで?
リ:ブロントサウルス改めアパトサウルスが本当にいたのがその時代だから。
ぼ:えーっ!原作ではアパトサウルスがいない時代にアパトサウルスを見に行ったの?
リ:仕方なかったのよ。原作者がシノグナータス哺乳類先祖説に執着しちゃったから、そっちの時代に合わせた。
ブ:コレモ原作ノトキ準備班ガあぱとさうるすノ群レトあろさうるすヲ一億九千万年前ノ南あふりかニ連レテイッタンダ。
リ:アニメでは古生物監修がしっかり入って、哺乳類の祖先として妥当性が高く時代も後期ジュラ紀にばっちりの真獣類ジュラマイアを採用。他の古生物も地域的な問題は多少目をつぶってもみんな後期ジュラ紀に揃えた。
ぼ:へえ。じゃあ原作のときは、肝心なアパトサウルスでごまかしやってたくせに、ティラノサウルスは時代が違うとか、さも考証がしっかりしている風なことをリームは言ってたんだ。
リ:うるさいわねっ。文句は原作者に言ってよ!
エピローグ
ぼ:今回アニメ化されなかったエピソードは『妖狐、那須高原に死す』と『シンドバッド最後の航海』か。なんでだろう。
リ:那須高原の殺生石は二〇二二年に割れてしまった。かえって話題に取り入れられそうな気もするけど。
ブ:原作者ガアノ後寝小便ねたハヤメタラシイカラ、ソノセイカモ。回避策ハアリソウダケド。
リ:シンドバッドの方は『千一夜物語』は架空の物語であくまでモデルの一人としながら、原作者が欲張ってシンドバッドの複数の航海から四十人の盗賊、アラジンと魔法のランプの話まで手際よく盛り込んじゃったもんだから、歴史考証的には苦しくなってしまったのかも。アラジンの物語なんかは出所が曖昧で、中国の話ってことなんだけど中東からとても遠い異国ってくらいの意味合いなのよね。時代も初めてヨーロッパに紹介された十八世紀からどれくらい遡れるのか分からない。
ぼ:『白竜のほえる山』のエピソードでの『西遊記』との絡みくらいだったら何とかなったのかもね。
ブ:ソレハトモカクあにめノしーずん1ハコレデオシマイダ。
リ:ぼんはこれからシーズン2があるけど、ユミ子さんと頑張ってね。あたしもちょっと出るかもしれないけど。
あとがき
Netflix版のアニメ『T・Pぼん』シーズン1、とても良かったです。シーズン2も楽しみです。
吉田 恭
Kyo Yoshida
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